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踏み絵を迫られる日本企業と、台湾ビジネスのリスク
先般、日本のスポーツメーカーであるアシックスが、中国のウェイボーで思い切った投稿をしました。
ざっくり言うと
「我々は(強制労働によって生産されているとの懸念がある)新疆ウイグル自治区産の綿花を、材料として使い続けます。我々は(台湾は中国の一部分とする)”一つの中国”の原則を堅持し、中国の領土と主権を断固として守り、中国に対する一切の中傷やデマに反対します」
というもの。
中国の人権問題が、これだけ日米欧豪などから批判されている最中に、アシックスは、全力で中国を支持する声明を、ウェイボーで行いました。中国ユーザからの反響は、当然ながら「支持!」「よく言った!」という絶賛のコメントが殺到しています。いっぽう、日本や欧米では「もうアシックスは買わない」という声も徐々に挙がりつつあります。こちらの記事によると、この投稿は日本本社の了承のもと行われたとの事。
このウイグル綿を巡った騒動の発端は去年、スウェーデンのブランドであるH&Mが「ウイグル産の綿花は使わない」と表明した事にあります。そののちアメリカのNIKEもその動きに同調し、これらのブランドは中国国内で猛批判を浴びています。
いっぽう、アシックス同様に中国支持を表明したのがイタリアのFILA。
「ウイグル綿花を使います!」とウェイボーで表明しました。
人権問題をめぐり、欧米と中国との対立が先鋭化するにつれて、多くの企業はある種の「踏み絵」を迫られています。
欧米企業より細心の注意を求められる日系企業
日本企業が中国国内で営業活動をする際には、諸外国の中国法人以上に細心の注意が必要なことは言うまでもありません。例えば、日本の満州支配の発端となった柳条湖事件の起こった9月18日は、中国では「国恥日」とされており、日系企業はこの日に大規模キャンペーンを控えます。
他にも、過去にはトヨタ・プラドの広告で、中国の象徴でもある獅子が、トヨタの自動車に対して敬礼し、そこにプラドの中国名である「覇道」という文字があしらわれているのが猛批判を受けました。獅子があしらわれた橋は盧溝橋を彷彿とさせ、「覇道」という言葉が日本軍国主義を想起させるから、というのが批判の理由で、トヨタは謝罪に追い込まれました。
↑画像出典:四国新聞
確かに、盧溝橋を想起させる場所で、中国の象徴である獅子が日本車に対して敬礼し、そこに「霸道,你不得不尊敬(プラド、あなたは尊敬せずにいられない)」というコピーが添えられるという広告が、中国人の気持ちを逆撫でするというのは理解できます。
いま日中関係は、さまざまな課題を抱えながらも、交渉のパイプを維持しつつ新たな関係を模索していますが、またいつなん時、新たなリスクが暴発するとも限りません。
アシックスが言及した「一つの中国」論
また、アシックスが上掲のウェイボーの中で、ウイグル綿花を巡る論争の発端となった人権問題とは別に「一つの中国」に触れました。これは、他のメーカーより更に一歩踏みこんで、中国支持のスタンスを鮮明にしたと言えます。
一つの中国(ひとつのちゅうごく、繁体字: 一個中國、簡体字: 一个中国)とは、中国大陸、マカオ、香港、台湾は不可分の中華民族の統一国家「中国」でなければならないとする政策的立場および主張である。(Wikipediaより←正確で整理された内容なので、問題ないと判断し、Wikipediaを引用しております)
つまり「台湾も香港も、同じひとつの中国だ」という主張です。これは九二共識(92 Concensus)と呼ばれる合意に依拠しています。
ただし、現代に生きる多くの台湾人にとって、この考えは受け入れがたいもの。特に若い年代になればなるほど「中国は中国、台湾は台湾」という明確な意識を持っています。台湾の現政権も、そういった有権者の声を背景に議席を獲得していると言えます。
他方、多くの中国人にとっては「台湾は中国の一部、それは当然のこと」という確固とした認識があります。それは日本や欧米で教育を受けた、比較的オープンマインドな若い中国人でも変わりません。これは中国の覇権主義とか、領土への野心とか、日本の保守系メディアが中国を批判する際に使うレトリックとは全く別次元の、「文化的にも歴史的にも台湾は当然ながら中国の一部分であり、台湾は我々の同胞である」という、中国国民に広く浸透した、”ふつうの”共通認識と言えます。アシックスはその中国人の共通認識を代弁したわけですが、日本の、しかも東京五輪公式スポンサーであるスポーツメーカーがそれを表明した事は、多くの台湾人にとって看過できるものではありません。
すでに複数の台湾メディアが、アシックス社が「一つの中国」論に触れたことを報道しています。
「一つの中国」を支持することが何を意味するか、当然アシックスは分かっていたはず。上述のように、件の投稿は中国支社のSNS担当者が思いつきで行ったわけではなく、日本本社了承のもと行われました。
つまり、中国で営業活動する日本企業として、欧米メーカーより一層踏み込んだ支持表明が必要と判断したのだと、推察します。
台湾に軸足を置くリスク
日本・中国・韓国・北朝鮮・台湾・香港…..さまざまな対立の火種を抱える東アジアにおいて、日台関係は稀有な程に、(一定の摩擦は生じつつも)大きな衝突のない、友好的で安定的な関係を維持しています。当社も、その安定的な日台関係に着目し、また国交はないものの民間での交流が非常に活発だと言う情勢に着目し、事業を発展させてきました。しかしながら、昨今そんな日本にとっては非常に安定的でリスクの低い台湾市場が、にわかに危うさを帯びつつあります。
その危うさとは言うまでもなく、両岸(中台)関係です。これまで中国は長年にわたり、あの手この手で台湾への影響力拡大を企図してきました。しかし、そのたびに米国の軍事力によってその勢いを削がれ、結果的に台湾海峡には戦火がのぼることなく、「現状維持」の状態が続いてきました。いま多くの台湾人が望むのも、台湾の独立でもなく中国への併合でもなく、このつかず離れずの「現状維持」の状態です。しかし、膨張する中国の軍事力はすでに台湾や日本を圧倒し、東アジアにおいては米国をも凌駕しつつあります。これまで均衡状態を保っていた台湾海峡で、そのバランスが崩れる可能性が、日増しに高まっています。
【参考】中国の台湾侵攻「多くの人が理解しているより切迫」 米軍司令官
中国の対台湾政策の根本にあるのは「核心的利益」という大前提です。
核心的利益(かくしんてきりえき、中国語:核心利益)とは、国家主権、安全保障、領土の保全及び自国の開発に関する中華人民共和国の国家利益を指す政治的な用語。(Wikipedia)
詳述すれば、国家主権と領土保全(国家主权和领土完整)とは、
台湾・チベット・ウイグル・南シナ海・尖閣諸島(中国では釣魚島)
の事。
すでにチベット・ウイグルは中国政府の統制下に置かれ、ベトナムやフィリピンが領有権を主張する南シナ海の小島には、中国の港や飛行場がいくつも建設されました。また香港も、一国二制度の期限である50年間(1997-2047)をかなり前倒しして「本土化」をほぼ完了しつつあります。中国にとって、残る主要な課題は台湾、そして日本の尖閣諸島のみ。
画像引用元:THE PAGE
核心的利益とは、言うなれば、この点において中国は”絶対に”譲歩しないと言う考えです。外交的かけ引きや交換条件で落とし所を模索するというものではなく、”絶対に、一歩も、死んでも”譲らないという事です。この中国政府(ならびに中国共産党)の強烈な意志を、我々は正しく認識し、それに向き合わなければなりません。その強烈な意志と、そしてそれを背景にした軍事力を前に、アメリカが莫大な犠牲を払うでしょうか、或いは日本が自国民の血を流すでしょうか。中国のように、どんな犠牲を払っても台湾や尖閣を奪還すると言う覚悟があるでしょうか。
私はこれまで、テレビやラジオ、SNSなどあらゆるメディアにおいて、日本語でも中国語でも、中台関係をめぐる政治的な発言は厳に慎んできましたし、これからも発言するつもりはありません。しかしながら、事ここに及んでは、政治・外交ではなく経済的・経営的な観点から、リスクを正しく認識せねばならないと感じています。
近頃、台湾の方々と交流していても、両岸関係暴発のリスクは、想像以上に急激に大きくなっているというのは意見の一致する所です。